妊娠高血圧と食事について

 

今まで血圧が高いといわれたことが無かったのに、妊娠して妊娠高血圧症候群と診断された、妊娠高血圧とはどういう状態なのでしょうか。食事はどのように注意すればよいのでしょうか。

 

妊娠高血圧とは

妊娠高血圧は正式には「妊娠高血圧症候群」といいます。日本産科婦人科学会では「妊娠高血圧症候群」を「妊娠20週以降、分娩後12週まで高血圧が見られる場合、または、高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで、かつこれらの症状が単なる妊娠の偶発合併症によるものでないもの」と定義しています。
以前は妊娠中毒症という病名で呼ばれていました。2005年にこの病名は廃止され妊娠高血圧症候群という病名が採用されています。

 

《‘偶発合併症によるものでないこと’とは、妊娠中、事故にあい動転しそのことで血圧が上がった、妊娠中に血圧を上げる原因となる腫瘍ができそのことが原因で血圧が上がったなどの血圧高値、高血圧は、妊娠高血圧症候群とはいわない、ということと解釈します。》

 

 

妊娠高血圧症候群になると起こるかもしれない問題

 

赤ちゃんのからだの問題

原因として考えられている、胎盤の血管の形成不全に伴い胎盤の働きが悪くなります。血圧が上がることで母体の血管の内側の壁がいたみ、血流不良となり胎盤での酸素の供給や栄養供給がうまくいかなくなり赤ちゃんが発育不良になる恐れがあります。

 

次にあげる、お母さん側におこる問題に伴い赤ちゃんの生命も非常に危険な状態なることが考えられます。

 

お母さんのからだの問題

高血圧は血管壁を傷めます。細い血管が壊れることで蛋白尿、むくみ、腹水、肺水腫をきたし胸水が出現するおそれがあります。
血液の凝固能の異常により血が止まらなくなることがあります。常位早期胎盤剥離により、お母さんのからだも、赤ちゃんのからだもとても危険な状態になります帝王切開、子宮摘出を余儀なくされることがあります。急激に起こる血圧の上昇で脳が腫れて子癇発作というけいれん発作を起こすことがあります。脳出血を伴うこともあり帝王切開を必要とすることもあります。HELLP症候群という多臓器不全を引き起こし緊急の帝王切開、または子宮摘出を余儀なくされるリスクがあげられます。いずれの状態のおいても、お母さんに起こる状態にともない、赤ちゃんの生命もとても危険な状態なります。

 

妊娠高血圧症候群の診断基準

@妊娠20週以降に、分娩後12週までに高血圧が見られる場合、または高血圧に蛋白尿を伴う場合に妊娠高血圧症候群と診断されます。
Aもともと妊娠前から高血圧、蛋白尿があると診断されている場合は高血圧合併症、腎疾患合併症という病名になります。
B分娩後12週までの間にAの高血圧合併症妊婦に蛋白尿が加わった場合、腎疾患合併症妊婦に高血圧が加わった場合には妊娠高血圧症候群(加重型妊娠高血圧腎症)になります。
C血圧測定で6時間以上の間隔をあけて2回以上
収縮期圧(最高血圧)140mmhg以上または拡張期圧(最低血圧)が90mmhg以上あるいはその両方の場合に高血圧と診断します。
※高血圧の基準値は診察室で測定した場合の値と家庭で測定した値と別に定められています。家庭血圧の診断基準値はそれぞれ最高血圧135mmhg以上最低血圧85mmhg以下となっています。
D蛋白尿の診断は一日の尿量で300mg以上が蛋白尿と診断されます。またクレアチニンという値と蛋白尿の比をとり0.3mg/mgクレアチニンとしています。

 

妊娠高血圧症候群の原因と因子

 

@妊娠高血圧症候群のはっきりとした原因は明らかにされていません。現在、最も原因であろうと考えられているのは、妊娠15週までに胎盤の血管が正常と異なる形成をしてしまい、胎盤の血管が十分発達しないため、正常に機能をしないという説です。
A高年齢、肥満(BMIが25以上)、もともと高血圧ではないが血圧が高めであったなどの因子を持つ方は妊娠高血圧症候群になりやすいとされています。
B初産婦の方、母親が(旧)妊娠中毒症だった方、前回妊娠時妊娠高血圧症候群だった方、今現在高血圧で降圧剤を服用している方、のいずれの方も妊娠高血圧症候群ハイリスク群といえます。

 

妊娠高血圧症候群の食事は適切な体重増加と減塩

 

適切な体重増加と肥満予防

高血圧症候群においては、まずは適切な体重増加が大切です。肥満は高血圧のコントロールを困難にします。適切な体重増加をはかることが大切です。また不十分な体重増加の妊婦は、標準的な増え方をした妊婦の3倍も重症の妊娠高血圧症候群を発症したという報告もあるそうです。増え過ぎも、不足もなく、適切な体重増加が妊娠高血圧症候群の予防には勧められます。

 

摂取エネルギーめやす
BMIが24以下の方標準体重×30kcal+200kcal
BMIが24以上の方標準体重×30kcal

 

体重増加のめやす
BMIが18未満なら10〜12kg増
BMIが18〜24なら7〜10kg増
BMIが25以上なら5〜7kg増

 

《BMI=体重(kg)÷身長(m)×身長(m)》
《標準体重(s)=身長(m)×身長(m)×22》
※1998年に日本産科婦人科学会周産期委員会より発表された、妊娠中毒症(現、妊娠高血圧症候群)の生活指導及び栄養指導の一部を参考にしています。

塩分制限について

極端な塩分制限は、かえって妊娠高血圧症候群を増悪させる可能性があるとされています。
日本産科婦人科学会では塩分は1日7〜8gとしています。
(1日10g以下が予防として勧められます。)
※塩分の制限については、妊娠高血圧症候群においてナトリウムの代謝が十分に解明されていません。妊娠高血圧症候群の発症時期で減塩の有効性が変化し、軽症では減塩が有効、重症では無効、または好ましくないとする報告もあるそうです。

 

脂質について

脂質摂取量を総エネルギー量の25%未満くらいに抑えることがよい考えられています。
飽和脂肪酸、一価の不飽和脂肪酸を多く含む動物性食品を減らし、サバ、イワシ、マグロ、シソ油、エゴマ油などに含まれるn-3系不飽和脂肪酸を多くとることが勧められます。

 

ビタミンの摂取

妊娠高血圧症候群の方は、抗酸化作用のある血中ビタミンEの濃度が低下していることが知られています。ビタミンEを過不足なく摂るように心がけます。ビタミンEの効果を助けるビタミンCも同時にとるようにします。
アーモンド、アボカド、綿実油、ヘーゼルナッツ、アンコウ肝、うなぎかば焼きはビタミンEが多く含まれる食品です。
ビタミンEは脂溶性のビタミンですが動物性のビタミンA:レチノールに比べて過剰症は起こりにくいといわれています。それでも偏りがなく摂るようにします。

 

※うなぎは動物性のビタミンA:レチノールを多く含みます。過剰にとりすぎると赤ちゃんが奇形をもって生まれてくるリスクがあります。特に妊娠後期に入るまではとりすぎに注意が必要です。毎日食べることはないと思いますが、適量をとるようにしてください。特にうなぎの肝は非常にビタミンAの含有量が高い食品です。
他のビタミン、ミネラル類もまんべんなくバランスよく摂取してください。

 

調理の工夫

新鮮な食材を使って、濃い味付けで臭みをごまかしたりしないようにします。味付けは一点に重点的にします。汁気は少なめに。汁物は具を多くします。揚げ物を利用して風味よく調理します。丼、麺類は塩分過剰になりやすいので注意します。レモン、ゆず、食酢などの酸味を使って工夫します。すし酢の塩分に注意します。割りじょうゆなどを使います。香辛料を利用します。ネギ、ミョウガなど薬味を上手に使います。コンブ、鰹節、シイタケ、貝柱、など旨みの多い食材を活用します。減塩食品を利用してもたくさん使わないように気をつけます。

 

生活上の注意

 

症状・状態にもよりますが、安静が必要な際は安静を守り、ストレスをできるだけ避けて、規則正しい生活と3食をきちんと摂ることを心がけます。妊娠高血圧症候群は妊娠の状態がなくなると軽快します。しかし妊娠経験のある高血圧の患者さんの約45%が妊娠高血圧症候群の既往があるという報告があるそうです。妊娠中はもちろん、出産後もその後の生活習慣病のリスクを避けるため、適切な生活習慣を送ることが大切です。

 

 

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