妊娠中に注意するべき成分<水銀編>
水銀は、身近なもの(例えば、温度計、蛍光灯など)から医療・工業・環境調査を始めとした産業用でも使用される生活に有用な金属の1つです。
さらに、自然界の水銀が食品や飲料に含まれることもあります。水銀単体でも人体への毒性を示しますが、他の物質と結合した有機・無機水銀なども同様に毒性を示します。そのため、人体にとっては便利で身近なものではあるものの、有害な金属でもあるといえます。人体にとっての毒性は、体重あたりの摂取量によって示されることが多いです。そのため、胎児や乳児などの体重の軽い人では、わずかな摂取量でも影響が大きいことが知られています。特に胎児は、妊娠しているお母さんと胎盤を通じてつながっているため、お母さんから胎児へと有害物質が移行すると、胎児にまで影響が及ぶとされています。
本稿では、特に妊娠中に注意するべき成分の1つとして、水銀について述べていきます。
なぜ水銀を控えるべきか、そしてどのような影響があるか
前述の通り、水銀には毒性があり、妊婦から胎児へと移行します。ただし、普通の生活をしていれば、多量の水銀にさらされることはありません。水銀が人体に入る経路としては、直接水銀を摂取または曝露された場合だけでなく、食物に含まれた水銀を摂取することでも起こり得ます。具体的には、工業用排水が河川や海に流されることで、魚介類が水銀に汚染され、その魚介類を人が食べることで水銀が人に入り込み、水銀中毒を発症します。また、水銀による毒性の発現までは時間差があり、ある程度の水銀の蓄積が必要とされています。そのため、すぐに症状が出ずに水銀の蓄積に気づかず、妊娠を経て少しずつ胎児にも蓄積し、母子ともに水銀中毒を発症することがわかっています。
実際に、水銀中毒が起きた事例としては、日本国内では公害の1つとして水俣病が知られています。水俣病は、メチル水銀と呼ばれる水銀に有機化合物であるメチル基が結合した物質の摂取が原因とされています。メチル水銀は、モノメチル水銀やジメチル水銀など、結合するメチル基の種類によってさまざまです。水俣病は、工場が排出した水銀によって汚染された魚介類を食べたことが原因とされています。これらのメチル水銀は、摂取することで神経症状が現れます。例えば、手足の末梢神経の感覚障害、運動失調、視野狭窄、聴力障害、平衡機能障害、言語障害、手足の震えなどが挙げられます。これらの症状は、胎児でも同様に表れ、胎児性水俣病と呼ばれています。一方、世界ではアメリカやイラクでも同様にメチル水銀中毒が発生しており、これらも水銀が胎盤を介して胎児に移行することで中毒を引き起こすことが確認されました。
これらの事例を通じて、母体から胎児へと水銀が移行し、水銀中毒を発症することが分かってから、妊娠中にはなるべく水銀が含まれるような食物を控えるべきであると考えられるようになりました。
どんな食品や飲料に入っているのか
水銀は、特に魚介類に多く含まれていることがわかっています。海に住む魚介類は、人間の生活によって出てくる肥料や工業用廃棄物、自然界の鉱物や土壌に含まれる水銀にさらされています。まずは魚の餌となるプランクトン類がこれらの水銀を取り込み、それを魚が食べ、最終的に人間が食べます。前述の通り、水銀は蓄積することで発症するため、プランクトンから魚までどんどん水銀濃度が高くなっていき、魚は最も高濃度の水銀を含んでいます。また、自然界の水銀は海に排出されるだけでなく土壌にも含まれているため、米や野菜にもある程度は含まれています。ただし何れの食品に関しても、2019年現在では、過剰に摂取しない限りは影響が出ない濃度であるとされています。
これらのことから、妊娠中には魚の摂取に気を付けるべきとされ、実際に、魚介類の種類によって摂取しても良い頻度・分量の目安が厚生労働省より発表されています。
まとめ
水銀は、自然界においてありふれた物質であり、私たちの食品にもある程度は含まれてしまいます。ただし、公害となるような程の水銀に曝された魚介類を食べたりしない限りは、ある一定の量を超えない量を食べる分には安全とされています。また、水銀を体内に入れてしまったからといって、全てが体内に蓄積するわけではなく、自然に体外へと排出もされていきます。しかしながら、気づかないうちに悪影響が出るほどの水銀に曝されることを避けるために、特に妊娠中は、魚介類の摂取に気を付けることが必要だと考えられますので、厚生労働省などが作成した、過剰摂取に注意すべき魚介類について知っておく必要があります。